香川県と秋田県大館市のネット・ゲーム規制条例案について

コンピューターゲームの利用を1日1時間に制限しようとする「ネット・ゲーム依存症対策条例」が話題になっています。

この条例は、依存症につながるゲーム機などの使用を1日60分以内とする素案を作成、学校や保護者の責務も明確にするもので、香川県議会では今年4月の施行を、そして秋田県大館市議会では6月の定例会に提案する予定となっています。

香川県に次いで、秋田県大館市も追従する形となりました。
実は秋田県大館市は、私にとって学生時代を過ごした「第2のふるさと」だったため、このニュースには正直ガッカリしました…。

当「ティードリームネットワークス」ではコンピューターゲームの開発を行っておりませんので、この条例の規制対象にならない…と思っておりました。

しかし、香川県と秋田県双方の素案の中に
「子どものネット・ゲーム依存症対策においては、親子の信頼関係が形成される乳幼児期のみならず、子ども時代が愛情豊かに見守られることで ~途中略~ 活動の範囲を広げていけるようにネット・ゲーム依存症対策に取り組んでいかなければならない。(香川県条例素案)」
と表記されており、この「ネット・ゲーム」という表現が「ネットorゲーム」と捉えるのか、または「ネットandゲーム」と捉えるのか、解釈次第では「ネット自体」も条例の対象になるのではないかと思うようになりました。

また、秋田県大館市の条例素案では、
「ゲーム以外の利用については原則午後9時半以降は使用しないよう、ルール作りを求める(秋田県大館市条例素案)」
と、“ゲーム以外”の利用についてもしっかりと言及していることから、「ネット自体」も条例の対象になることは明白です。

昨今は様々なデバイスが登場しており、ネットとゲームの境界線はとても曖昧になっています。

例えば「Nintendo Switch」のような、ゲーム機とタブレット端末の中間のような位置づけのデバイスは良い例で、このような視点で考えた場合、やはりネット自体もこの条例の概念に当てはまってしまうのではないかと考え、たとえゲーム自体を作っていない当店であってもウェブサイトやネット動画、ブラウザゲームを始めとするウェブコンテンツを作る立場であることから、この条例の成立については注視し、疑問の声を挙げなければならないと考えました。

つまり、ウェブコンテンツを作ったり提供したりする業者は、当社がトップページに設置したポップアップ
「あなたは香川県民または秋田県大館市民ですか? Yes No」
といった、まるでアダルトサイトの年齢認証のような機能を設け、香川県や秋田県大館市からのアクセス者に対してはIPアドレス等で判別して接続時間を測定し、60分を経過したら遮断する…といった仕掛けが必要になるかもしれないのです。

そこで当ウェブサイトでは、このサイトを訪れる人に香川県や秋田県大館市のネット・ゲーム依存症対策条例に対して関心を持っていただきたくポップアップを設置しました。
そしてこのサイトでご意見をいただくことを通してこの条例が「本当に必要なのかどうか」を考えていただきたいと思うと同時に、当ティードリームネットワークスの代表である田中健(私)は看護師であることから、私が持っている知識の範囲で脳科学上の観点から「ゲーム依存からの脱却に条例による規制がは有効なのかどうか」を述べていきたいと思います。

皆様からのご意見も広く募集したいと思いますので、ご意見のある方はこの記事の下のコメント欄に書き込んでください。

目次

ネット・ゲーム依存症対策条例(仮称)の背景とその矛盾点

2020年1月28日付けの産経新聞によると、この条例が必要とする背景について香川県検討委員会の大山一郎県議は
「ネットやコンピューターゲームの過剰な利用は、学力や体力の低下、慢性的な睡眠障害、注意力・記憶力の低下、視力障害や頭痛を引き起こすとされ、昨年5月に世界保健機関(WHO)が「ゲーム障害」を疾病と認定するなど「国内外で大きな社会問題となっている」と指摘した。
 厚生労働省研究班が平成30年8月に公表した調査結果についても言及し、病的なインターネット依存が疑われる中高生が93万人にのぼるとの推計を紹介。「低年齢化が進行している」と危機感をあらわにした。
 また、地元紙などによる世論調査では、(香川)県民の8割が「ゲーム依存症対策が必要」と考えているとする結果が示されたとした。
 施行を目指す条例は、ネット・ゲーム依存症対策の推進について基本理念を定め、県や学校、保護者の責務などを明らかにするとともに、「依存症対策を総合的かつ計画的に推進する」目的がある」
と述べたとのこと。

この内容については、秋田県大館市の趣旨もほぼ一致しています。

この内容を読み解くと、極めて一般的な論理の羅列にしか過ぎず、つまり肝心な「なぜ香川県や秋田県大館市に必要なのか」が述べられていないことがわかります。
また、「病的なインターネット依存が疑われる中高生が93万人にのぼる」といった情報や、「(香川)県民の8割が「ゲーム依存症対策が必要」」といった統計情報も調査方法や調査対象などが詳しく明かされていないことから、確率統計論の観点からも疑問が残り、条例による規制が必要であることを裏付ける決定打にはなっていません。

行政が家庭に介入するリスクと見え隠れする「家庭教育支援法案」

また、行政が家庭に介入するリスクもあります。

与党・自民党が成立を目指している「家庭教育支援法案」という名前を聞いたことがある人は少ないと思いますが、要するに「今の親には問題が多いから管理統制して義務を課す」という基本姿勢を打ち出した法案で、この法律で鮮明になるのは「国が決定 → 学校・住民・保護者が協力」という上意下達の枠組みであり、逆に、国へ意見や要望を述べる権利は保障されていないのです。

つまり私が危惧しているのは、香川県が制定を目指している「ネット・ゲーム依存症対策条例(仮称)」は、行政による家庭への介入という観点においては「家庭教育支援法案」の趣旨と似たものがあるのではないかと感じてしまうだけでなく、この条例は「家庭教育支援法案」の「香川県ゲームVer.」になってしまい、この条例の制定がきっかけで「タガ」が外れ、今後はあらゆる要素に行政が介入してくる可能性があるのではないかと危惧しているのです。

香川県の条例施行を皮切りに秋田県大館市も追従し、その波が全国へ及ぶことになった場合、全国の家庭は行政の監視下に置かれるという、恐ろしいことになりかねません。

権力は「一見すると正しそうに見えること」から介入し、気づいたときには様々なことに手を伸ばし、監視していくのです。

条例は違法で人権侵害の可能性も?

国連が制定し、日本も批准する「児童の権利に関する条約」の第5条では、児童への保護者の指導を尊重することを締約国に課していますから、行政が親に対して子供によるゲーム利用のルール作りを勧め、「順守させるもの」とする香川県の条例は、この「児童の権利に関する条約」に抵触することは明らかです。

また、教育基本法第16条では「教育は「不当な支配」に服してはならない」と明記されており、たとえ民意の多数で支持された政党や政治家であっても、教育への介入は禁じられていますので、このような観点からも香川県の「ネット・ゲーム依存症対策条例(仮称)」はコンプライアンス違反である可能性があるということになります。

依存症のメカニズム

とはいえ、子供を中心とするゲーム・ネット依存は深刻であることには変わりありません。

では、子供たちを依存症から救うにはどのようにしたら良いのでしょうか。

まずは「依存症のメカニズム」から述べたいと思います。

この内容は「脳のメカニズム」の話になりますので、まずは脳の部位名称を覚えてください。このお話では3つの部位が出てきます。

・前頭葉…
・脳幹…
・大脳辺縁系…


※クリックで拡大

一例として、A君がゲームに没頭し、アイテムのガチャをたくさん引きました。
その結果、欲しかったアイテムをようやく手に入れることが出来ました!

…この時点で脳内はどのような動きをしているかというと、前頭葉から「ドーパミン」という神経伝達物質が分泌されています。
この「ドーパミン」とは別名「快楽物質」と呼ばれ、人間の脳は「快感」という「報酬」を得ることが出来るのです。

この状態が続くと、報酬を連想させるものと快感の結びつけや報酬に関連する長期記憶の形成が行われていきます。

また、通常はここで「脳幹」から理性的に衝動行動を抑える「セロトニン」という神経伝達物質が分泌されるのですが、慢性的な快楽状態になるとセロトニンの働きが低下していきます。

慢性的に快楽を味わえる状況が続くと、快楽に対する反応が鈍くなり、満たされない欲求を満たすための行動をとるようになります。そして、快楽や報酬に関連する行為を実行する気持ちが、止めようとする意思を上回るようになり、頻度が増して、ゲームにのめり込んだ状態になってしまうのです。

これがいわゆる「依存症」の状態です。

皆さんはここでお気づきかと思いますが、このような「依存症のメカニズム」の観点からすると、香川県の「ネット・ゲーム依存症対策条例(仮称)」による、行政からの「ルールの順守」や「時間制限」は、まったくもって意味が無いどころか、理性的に衝動行動を抑える「セロトニン」の分泌を促すようにするべきであることがおわかりいただけると思います。

では「セロトニン」を増やすためにはどうすれば良いのでしょうか?

セロトニンを増やす方法は
・運動
・日光を浴びる
・人と人とのコミュニケーションをとる
なのですが、あれ?これって行政が介入しなくても家庭で実践出来ることじゃありませんか?

「ネット」「ゲーム」は生まれた時から身近にあるメディア

ここでちょっと考えていただきたいことがあります。

この条例をつくろうとしている人達って、一体何歳なのでしょうか?

被選挙権の年齢等を考慮しても、若くて30歳代、上は…かなり年配の方もいるかもしれません。

そのような年代の方たちが幼かった時代は、スマートフォンは無かったでしょう。
いや、ネット回線自体も無かった、あるいは普及していなかったのではないでしょうか。

そして今、日本に初めてスマートフォンが登場した2005年から15年経ちました。
そのように考えると今の子供達の周りには生まれた時からスマートフォンがあり、ものごごろが付いたときにはスマートフォンが普及しているのが当たり前だったわけですから、そのような世代の子供たちに対して一方的な規制やルール作りをするのはナンセンスではないでしょうか。

ゲーム依存の問題の根本は「家庭環境」

先ほど述べたように、「依存症」は「セロトニン」の分泌を促すことで治療することが出来るものです。

つまり「家庭環境」を改善することで子供たちを「ゲーム・ネット依存症」から救うことが出来るのですから、行政が親に対して条例でルール作りを勧めて「順守」させるという「上から目線」で対処するのではなく、家庭環境を改善する政策の実行を通してアプローチすることに注力すべきであるとおもいます。

ゲーム自体が依存を引き起こすわけではありません。
家庭環境の悪さや愛情不足、欲求不満など、何かしら依存傾向にある人のトリガーとして「ネット」や「ゲーム」があることは先述した脳科学上の観点からも明らかですから、行政はこのような家庭環境の改善や人と人とのコミュニケーションを充実させるための政策を通して根気強くアプローチすることが、ネット・ゲーム依存症から子供たちを救うための効果的な方法でしょう。

条例を作ることが解決にはならないどころか逆効果であると、私は考えます。

大切なのは「家庭の役割」

そして最後に「家庭の役割」についてです。

まず「ルール」は家庭が自主的に作るべきものであると、私は考えます。
行政が作るものでも、勧めるものでもありません。

家庭が自主的に作るルールにはまず、親自身がネットやゲームの便利さ・楽しさだけでなく、怖さやリスク管理と言った知識をしっかりと身に付けておく必要があります。

そのうえで
・アカウント(権限)が親が管理する
・課金は親の承認を得るようにする
・フィルタリングは親が設定する
などの物理的な対策を講じることも必要ですが、なにより子供ともっと話をしてあげてください。

親自身も、子供の顔よりもスマートフォンの画面を見る時間の方が長くなっている親が多くなっているように見受けられますが、子供を見つめてあげてください。

子供と一緒にお出かけをするなど、軽い運動をしてください。
そして、スマートフォンを通してではなく直接コミュニケーションを図ってください。

そうすれば、仮に時間がかかったとしても、必ずやゲーム・ネット依存から脱却することが出来るでしょう。

以上の観点から、私は「ネット・ゲーム依存症対策条例(仮称)」には反対ですが、皆さんの意見はいかがでしょうか。
ぜひ、コメントをお寄せください。
お待ちしております。

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