「コロナ前」にはもう引き返せない~未来を見据えたビジネスとは~

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連日、メディアやネットを騒がせている「新型コロナウイルス(以下、COVID-19とする)」ですが、このウイルスの影響で今、飲食店や観光関連業、金融、製造業など、様々な産業が大打撃を受けています。

この記事では果たしてこのような状態から抜け出す術(すべ)はあるのか、ピンチをチャンスに変える方法はあるのか等、人々の思考の変化や今後大きなチャンスが来るであろうビジネスの予測まで読み解いていきます。

なお、これから話す内容は日本国内に限った内容であることをご理解いただいた上で読み進めていただければ幸いです。

目次

それは突然やってきた!

2020年1月16日、それは突然やってきました。
「新型コロナウイルス(COVID-19)」が日本に上陸したのです。

この時点では誰もが今日のような状態になるとは想像もしていなかったことでしょう。
「あけましておめでとう!」
「今年はいよいよ東京オリンピックだね!」
そのような雰囲気が一変しました。

この記事では「新型コロナウイルス(COVID-19)」の病理については省略しますが、この日この時から大きく変わり始めた人々の思考や行動について解説し、今後「大転換」が迫られるビジネスとその対策について述べていきます。

人々の思考や行動を大きく変えた「COVID-19」

最近では新型コロナウイルスに関する報道で「行動変容」という言葉が多く聞かれるようになりました。

この言葉は人々が行動をとる際「密集」「密室」「密接」といった、いわゆる「3密」を避けて行動することを促すもので、例えば満員電車での通勤を避けてテレワークなどの在宅勤務をすることをはじめ、イベントやショッピングセンターなどの人混みへ行くことを避けたり、お店やイベントの「営業自粛」を促すといった、これまで「当たり前」だった行動を大転換するきっかけになりました。

この「行動変容」はマーケティング用語で「ビヘイビアチェンジ」と呼ばれています。

私は「PR戦略の立案」の仕事をしておりますが、お客様へ提案するPR戦略の中では必ずと言っていいほど
「お客様の消費行動を喚起するための方法として、まずは「パーセプションチェンジ(心理変容)」を促した上で「ビヘイビアチェンジ(行動変容)」へと結びつけていくことが大切です。」
と提案します。

でも、これでは何を言ってるのかさっぱりわからないですよね(笑)

それでは解説します。

この「ビヘイビアチェンジ」の前段階で大切なのが「心理変容」で、これをマーケティング用語では「パーセプションチェンジ」と言います。
そしてさらに「パーセプションチェンジ」のベースになっているのが「パブリシティ(認知・広報)」です。
この3つの言葉を覚えてくださいね。

では「パブリシティ(認知)」「パーセプションチェンジ(心理変容)」「ビヘイビアチェンジ(行動変容)」の3つがどのような相関関係にあるのか、そしてCOVID-19で人々の認知・心理・行動がどのように変わっていったのかを解説します。


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一般的に人々の心理や行動が変化するプロセスは、上の図のような「ピラミッド型」を辿ると言われています。

COVID-19では2020年1月16日の日本初上陸時、多くのメディアがこのニュースを伝えたことで一気にCOVID-19についての「パブリシティ(認知)」が広がりました。

そしてCOVID-19が徐々にその感染を広げていったことと、加えてクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス号」での集団感染が連日テレビなどのメディアで報じられるようになると、時々刻々と変化する状況を目の当たりにしていた人々の心理ではそれまで平穏だった日常が徐々に不安や恐怖へと変わる「パーセプションチェンジ(心理変容)」が起こりました。

その後様々な過程を経て、政府による「全国一斉臨時休校」や一部の地方自治体による「非常事態宣言」、さらに政府による「緊急事態宣言」の発布などで人々の不安は頂点に達し始め、この「パーセプションチェンジ(心理変容)」が加速しました。

そこに「外出自粛要請」がセットされたことで、人々は半ば強制的に「ビヘイビアチェンジ(行動変容)」せざるを得ない状況に置かれることとなりました。
いよいよピラミッドの頂点に達したのです。

ここまで(頂点)に達すると、人々は自ら行動し始めます。

その象徴が、マスクやトイレットペーパーの買い占めなどの「負の行動」や、SNS(ツイッターなどのソーシャル・ネットワーキング・サービス)で広がっている「#STAYHOME」というハッシュタグ(ラベルのようなもの)を付けて「家にいよう」と発信する行動などです。

このような流れを経て、人々の心理や行動が変わっているのです。

人の思考は一度変わると元に戻らない

アドラーの心理学によると、人の思考は一度変わると戻らない性質を持っていると言われています。

このため、今回のCOVID-19による人々の思考の変化は、仮に収束へと向かったとしても継続し、そのまま標準的価値観として根付く可能性が高いと言えます。

具体的には、例えば外出自粛要請に基づくテレワークで得た、自宅で仕事をすることの快適さを一度味わってしまうと、仮にCOVID-19が収束に向かったとしてもその快適さから離れることが出来ず、テレワークのまま仕事を続けたいと願う人が増えるでしょうし、他にも「ネット飲み会」などで“他人の目を気にせず自宅でリラックスしながら飲める”“居酒屋で飲むとなかなか途中で帰りにくいけど、ネット飲み会ならいつでも離脱できる”といったメリットを味わうと、仮にCOVID-19が収束に向かったとしてもわざわざ外へ出て飲みに行くことはしなくなる人が増えるでしょう。

このような思考が様々な分野で進むことが予想され、例えば
・学校へ行くよりもWeb授業の方が効率よく勉強できる
・病院へ行くよりも遠隔診療を受けた方が、病院で病気に感染するリスクが無い(妊婦や高齢者に受け入れられる)
・集団のつながりよりも、個々の関係性に基づく「関係価値」を重視する傾向が強まる
…などの考え方が進むようになるでしょう。

つまり人々の価値観は急激に変化し、不可逆的な性質を持っているため、「コロナ前」にはもう引き返すことはできず、これからは未来を読み解いていかなければならないのです。

こんなものが売れるとは!?

ここでちょっと話が変わりますが、実は今、最も売れている商品は「バリカン」です。

その理由は、福岡県でCOVID-19による「美容院クラスター(感染者集団)」が発生したとのニュースを受け、床屋や美容院が警戒され始めたことと、外出自粛要請に基づいて床屋や美容院へ行かなくなった人が増えたことから、自宅で髪を切る人が増えたのです。

「今日から俺は!!」に出てくるような、いわゆる“昭和のツッパリ”にはなじみが深いバリカンが、この令和になって2020年にヒット商品になろうとは、一体誰が予想したでありましょうか。

また、エステ店なども警戒されていることから、女性向け美容家電も売れています。

そしてさらに売れているのが「タコ焼き器」や「ホットプレート」などの調理家電です。

学校の全国一斉休校措置や外出自粛要請を受けて、家庭でいつもより凝った料理を作れば余暇時間を楽しく過ごすことが出来るほか、子供と一緒に調理すれば、世話をしながら料理が作れることから人気を博し、家電量販店では売上が前年比2倍ほどの伸びています。

調査会社ニールセンカンパニーが3月に実施した調査によると、新型コロナウイルス感染症が終息した後も、自宅での食事を増やすとした日本人は30%だったそうです。

4月7日に「緊急事態宣言」が発令されるなど、政府による外出自粛要請はさらに強まっており、さらにその意向は強まるでしょう。
つまり消費者の家での過ごし方が変化していることから、これは外食産業にとっては注視して生き残り策を考えなければなりません。

この他にも
・スカパー!の加入者数が伸びている…外出自粛による需要
・動画サブスクリプションサービス(AmazonプライムビデオやNetfrix)の加入者が伸びている…外出自粛による需要
・通信教育(進研ゼミやスタディサプリ(リクルート))などの補完教育の加入者が伸びている…一斉休校措置で自宅にいる子供向け
・ぬり絵や色鉛筆、絵の具が売れている…一斉休校措置で自宅にいる子供向け
・トランポリンなどが売れている…外出自粛による運動不足解消
・メガネの曇り止めが売れている…マスク装着時に使用
・ビールの「ホームサーバー」が売れている…外出自粛による需要

といったように様々な動きが出ており、このように「消費マインド」に変化が生まれているため、今後は
・映画館
・学習塾
・フィットネス業界
・飲食業界
…など、多くの業界でビジネスモデルの「大転換」を迫られることになるでしょう。

様々な業界が淘汰される中で、生き残るのは…

このように価値観が変わると、様々な業界が淘汰されていきます。

例えば先ほどの「学校へ行くよりもWeb授業の方が効率よく勉強できる」では、様々な教育機関や企業からの授業を受けることが出来るようになるため、適当な教育方針や授業を行っている学校は生徒が離れ、やがて潰れ、先生や関係者は職を失うでしょう。

また「病院へ行くよりも遠隔診療を受けたほうが、病院で病気に感染するリスクが無い」では、「セカンドオピニオン」ならぬ「トリプルオピニオン」以上の病院から診察を受けることが出来るようになるため、患者のニーズに応えられない病院は閉院を迫られることになりそうです。

つまり、これからの消費者は「モノ」に対してお金を払うのではなく、「効率」や「質」などの「価値」に魅力を感じてお金を払うようになります。

このような価値観の変化による影響をダイレクトに受ける可能性があるのが「飲食業界」でしょう。

飲食業界はこれまで「対面」による接客が基本のビジネスでしたから、この業界は今回のCOVID-19による価値観の変化によってそのビジネスモデルを根底から「大転換」しなければならなくなるでしょう。

またその一方で「残る」ビジネスもあります。

例えばアーティストによるライブなどの「エンターテイメントビジネス」は、人々が会場へ足を運び、生の演奏や生の歌声を聴きながら踊るなど、遠隔ではなくその場に行かなければ楽しんだり味わうことが出来ない要素が満載のビジネスですから、この「価値」に魅力を感じてお金を払うことで「満足感」を得ることが出来るため、今後も残り続けるビジネスだと言えましょう。

つまりこれまでの消費マインド(心理)は「物を買う」でしたが、これからは「価値」や「満足感」を得るために「お金を払う」というマインドにシフトしていくことから、単に物やサービスを売るだけのサービスは潰れます。

これからやるべきこと

では、これから「やるべきこと」は何なのかを考えていきたいと思いますが、その前にひとつお断りがございます。

これから書くことは、青森県のように現時点でCOVID-19の封じ込めがある程度出来ている地域で「やるべきこと」を書いていきます。

感染が拡大している「特定警戒都道府県」は対象としておりませんので、ご理解の上お読みください。

筆者は、このようにある程度出来ている地域では、きちんと感染リスク管理を行って外的(県外からウイルスを持ち込んでしまうリスク)を遮断したうえで、県内で行う規模の地域イベントなどは徐々に開放して人と経済を回していくことで持続させる必要があると考えています。

現在、COVID-19の封じ込めがある程度出来ている地域は、幸いなことに大都市からの人の流入も抑えられていることから、大きな感染拡大が起きる可能性は少ないと言えるでしょう。

このため、今の「自粛期間」はCOVID-19が収束へ向かった場合に備えて従来のビジネスモデルを大転換し、来たるべき新しい価値観による世界に取り残されないようにするための「準備期間」にするべきであり、地方が息を吹き返す最後の「大チャンス」だと言えるでしょう。

とはいえそのような地域でもCOVID-19が発生する可能性はありますので、このような地域の人々は「何がローリスクで何がハイリスクなのか」をきちんと冷静に見極め、かつ「ゼロリスク概念」は捨て、「ローリスク」を極力抑えながら人と経済を回し、来るべき新しい価値観の未来で「チャンス」をモノにするべきだと思います。